この記事でわかること
- 賃貸借契約の個人間契約(家主と直接契約)で起こりがちなトラブル
- 一般的な賃貸契約で発生する主要なトラブル事例
- 個人契約のメリット・デメリットと注意点
- トラブルが発生した時の対処法と相談先
- 契約前にチェックすべき重要なポイント
- トラブルを未然に防ぐための実践的な対策
賃貸物件を借りる際、「仲介手数料を節約したい」「大家さんと直接やり取りしたい」という理由で個人間契約(家主との直接契約)を検討する方が増えています。
しかし、個人間契約には仲介手数料の節約というメリットがある一方で、契約書の不備・重要事項説明の不足・トラブル時の対応困難など、様々なリスクが伴います。
この記事では賃貸の個人間契約で発生しがちなトラブルから、一般的な賃貸借トラブルまで、法律の知識がない方でも理解できるよう詳しく解説します。トラブルの対処法や予防策も合わせて紹介しますので、安心して賃貸借生活を送るための参考にしてください。
個人間契約(家主との直接契約)とは
まず、個人契約とはどういうものなのか?をみていきましょう。
個人間契約の定義
個人間契約とは、不動産会社(仲介業者)を通さずに、家主と借主が直接賃貸借契約を結ぶことです。
通常の賃貸契約の流れとの違い
通常の賃貸借契約の流れ: 借主 ↔ 不動産会業者社 ↔ 大家さん
個人間契約の流れ: 借主 ↔ 大家さん(直接)
個人間契約のその他の特徴
個人間契約では家主が以下の業務を全て行います。
- 入居者の募集・案内
- 契約書の作成・締結
- 家賃の収受・管理
- 物件の維持管理
- トラブル・クレーム対応
- 退去時の立会い・精算
つまり、通常は不動産業者の専門スタッフが行う業務を、家主一人で全て担当することになります。そのため、家主の専門知識や経験の有無が、契約内容の適切性やトラブル時の対応力に直接影響します。
また、家主が本業を持つ場合は、「連絡がつきにくい」「対応が遅れる」といった問題が発生する可能性もあります。
個人間契約で起こりがちなトラブル
それでは、本題の「個人間契約でよくあるトラブル」は何があるのか確認していきましょう。
1. 契約書の不備によるトラブル
最も多いトラブルが契約書の不備です。
よくある問題
- 契約書がそもそも存在しない
- 重要な項目が記載されていない
- 大家さんに有利な条件ばかり記載されている
- 法的に無効な特約条項が含まれている
- 原状回復の範囲が不明確
契約書が存在しても「退去時は全て借主負担」という一方的な特約があったり、金品の返還条件が不明・家賃の値上げ条件が曖昧・更新料の根拠が不明といったような借主にとって一方的に不利になるような内容が盛り込まれているケースも存在します。
2. 重要事項説明の不足
重要事項説明とは、契約前に物件の重要な情報を説明することです。
不動産業者では宅地建物取引業法により重要事項説明が義務化されていますが、個人間契約では重要事項説明の義務はありません。
では、具体的にどんな問題が出てくるのでしょうか?
重要事項説明がないとどうなるか
- 物件の欠陥(雨漏り、騒音など)
- 周辺環境の問題(嫌悪施設など)
- 設備の故障歴
- 近隣トラブルの履歴
- 建物の構造的な問題
といった重要な内容を知ることができないリスクが出てきます。
3. 家主との人間関係トラブル
家主との人間関係が直接トラブルに関係しやすいのが個人間契約の特徴です。
よくある問題
- 過度な生活への干渉
- 無断での室内立ち入り
- 頻繁な連絡や訪問
- 価値観の押し付け
- 性格の不一致によるストレス
そもそも家主と知り合い同士で、気軽な気持ちで契約したものの契約してみると必要以上に生活空間に立ち入られてしまう・あるいは関係が悪くなってしまって必要な管理をしてもらえなくなってしまう・・・といったようなケースが無いともいえません。
4. 火災保険・サービスの不備
保険・サービスの準備不足もトラブルの原因となります。
リスク
- 火災保険に加入しないまま入居
- 鍵の紛失時に対応できない
- 水漏れなどの緊急時に連絡が取れない
- 設備故障時の対応が遅れる
5. 入居者審査の甘さによる周辺住民の質の低下
審査基準が統一されていないことにより、問題のある入居者が住んでいる可能性があります。
よくある問題
- 家賃滞納者が多い
- 騒音やマナー違反が頻発
- 住民の入れ替わりが激しい
- 建物の管理状態が悪い
トラブルが発生した時の対処法
ステップ1:証拠の収集
個人間契約でトラブルが起きたときに解決が難しいといった場合、第三者に解決を依頼することが必要になってきます。
その際、まず重要なのは証拠を集めることです。証拠集めというと気が乗らない方もいるかもしれませんが、自分の権利を守るために必要なことと考えるとよいでしょう。
収集すべき証拠
- 契約書・関連書類
- 口約束の内容(録音・メモ)
- 写真・動画
- メール・LINEなどのやり取り
- 領収書・請求書
ステップ2:契約書の確認
契約書の内容を詳細に確認しましょう。「契約書に書いてあるからお金を払わないといけない・・・」といった困りごとの場合にも、その契約書の内容がそもそも法的に有効なのかどうかをまず考える必要があります。
確認ポイント
- 問題となっている事項の記載内容
- 特約条項の有効性
- 法的に無効な条項がないか
ステップ3:家主との話し合い
感情的にならず、冷静に話し合いを試みます。
話し合いのポイント:
- 事実を整理して伝える
- 証拠を提示する
- 解決策を提案する
- 話し合いの内容を記録する
ステップ4:専門機関への相談
話し合いで解決しない場合は専門機関に相談しましょう。
相談先
行政機関
市区町村の生活課・住宅課 - 一般的な賃貸トラブル
消費生活センター - 消費者トラブル全般
宅地建物取引業協会 - 不動産業者関連のトラブル
法的相談
弁護士 - 法的判断が必要な場合
司法書士 - 裁判書類作成や法的手続き(140万円以下)
行政書士 - 内容証明郵便等書類の作成
法テラス - 無料法律相談
専門機関
ちんたい協会 - 賃貸住宅トラブル専門
不動産適正取引推進機構 - 不動産取引トラブル
ステップ5:法的手段
最終手段として法的手段を検討します。
法的手段の種類
- 内容証明郵便 - 正式な通知・請求
- 民事調停 - 調停委員を間に挟んだ話し合い(簡易裁判所)
- 少額訴訟 - 60万円以下の金銭トラブル(簡易裁判所)
- 通常訴訟 - 本格的な裁判
まとめ
賃貸借の個人間契約は、仲介手数料の節約や直接交渉ができるというメリットがある一方で、契約書の不備・重要事項説明の不足・トラブル対応の困難さ・などのリスクも伴います。
個人間契約を検討する際は、これらのリスクを理解した上で、慎重に判断することが大切です。不安がある場合は、多少コストがかかっても不動産業者を通じた契約の方が安心できるかもしれません。
現在トラブルに遭遇している方は、一人で悩まず専門機関に相談することをお勧めします。