「賃貸借契約をしたけれど契約書を貰っていない」「口約束だけで住んでいるが、これは有効な契約なのか」「契約書がない状態でトラブルが発生した」など、契約書がない賃貸借契約に関する悩みを抱えている方は意外と多くいらっしゃいます。

実は、口約束だけでも賃貸借契約は法的に有効です。民法では、契約書がなくても当事者の合意があれば契約は成立すると定められています。しかし、契約書がないことでトラブル時の証明が困難になったり、一方的な主張の押し付けに遭ったりするリスクがあります。

この記事では、契約書がない賃貸契約の法的な扱いから、実際にトラブルが発生した場合の対処法まで、法律の知識がない方でも理解できるよう詳しく解説します。現在トラブルに遭遇している方、契約書を貰っていない方は、ぜひ参考にしてください。

契約書がない賃貸契約の法的な有効性  

賃貸借契約は「諾成契約」です。これは、当事者同士の合意だけで成立する契約のことを指します。

民法第522条(契約の成立と方式)

  1. 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示に対して相手方が承諾をしたときに成立する
  2. 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない

とあるように、書面(契約書)がなくても契約は成立するのです。

  • 借主:「この部屋を月5万円で借りたいです」
  • 大家:「わかりました。お貸しします」

とてもシンプルですが、この会話だけでも法的には有効な賃貸借契約が成立します。ではなぜ概ねの契約には契約書が存在するのでしょうか。

契約書の本当の役割

契約書は 契約の証明書であり、契約そのものではありません

契約書の役割

  • 契約内容の明確化
  • 当事者の合意内容の記録
  • トラブル時の証拠
  • 後日の争いの防止

つまり契約書がなくても契約は有効ですが、契約の存在や内容を証明するのが困難になります。つまり、トラブルが発生しやすいということでもありますね。

契約書がない場合に発生するトラブル

契約書が存在しない場合、具体的にどんなトラブルが予想されるでしょうか。実際にチェックしていきましょう。

1. 契約内容の認識違い

  • 家賃の金額について「3万円と言った」「5万円と言った」
  • 敷金・礼金の有無について認識が違う
  • 契約期間について「1年と言った」「期間は決めていない」
  • 更新料の有無について意見が対立

具体例: 口約束で「家賃3万円」と合意したつもりが、大家さんは「管理費込みで3万円」と言い、借主は「家賃3万円プラス管理費」と理解していた。

このように、金額についての齟齬が生まれることでのトラブルはよくみられます。

2. 禁止事項・使用ルールの争い

  • ペット飼育について「OK」「禁止」の食い違い
  • 楽器演奏について「許可した」「許可していない」
  • 友人の宿泊について「自由」「禁止」の認識違い
  • 駐車場使用について「込み」「別料金」の争い

具体例:「小型犬までならOK」という細かい条件の説明を管理者側が忘れる・あるいは説明されたことを契約者側が忘れており、中型犬は契約後にダメと言われてしまった。

これらのトラブルは、契約時の口約束の内容が曖昧だったことが原因で発生します。

3. 退去時の原状回復トラブル

  • 原状回復の範囲が不明
  • 敷金の返還条件が曖昧
  • 修繕費用の負担割合が不明
  • 退去予告期間が不明確

具体例: 退去時に大家さんから「全部借主負担で修繕」と言われたが、借主は「普通の使用による劣化は大家負担」と主張。どちらが正しいかを証明できない。

4. 家賃値上げ・更新拒否トラブル

  • 突然の家賃値上げ通知
  • 更新条件の一方的な変更
  • 正当な理由なく更新拒否
  • 立退料なしでの退去要求

具体例: 帰宅すると郵便受けに書面が入っており、中身を確認すると「来月から家賃を1万円上げる」という旨の内容が書かれていた。事前に説明されておらず納得いかない。

また、これらの問題が発展すると「言った・言わない」の水掛け論になってしまいます。

  • 「○○と約束したはず」「そんなことは言っていない」
  • 「△△は許可した」「許可した覚えはない」
  • 「条件を変更すると言った」「変更していない」

しかし契約書がないと証拠もないため、どちらの主張が正しいかを客観的に判断できません。

契約書を貰っていない場合の対処法

まず、契約書が本当にないのかを確認しましょう。必要があれば不動産会社や管理会社に相談します。そもそも貰っていたのに数年経って忘れていた、紛失してしまったというケースもあるかと思います。

宅地建物取引業法の規定

  • 不動産会社は契約書を事業年度末から5年間保管する義務
  • 借主から求められた場合はコピーを提供する義務

相談方法

  1. 契約を仲介した不動産会社に連絡
  2. 「契約書を受け取っていない」「あるいは紛失した」旨を伝える
  3. 契約書の原本またはコピーを求める
  4. 手数料(数十円~数千円)が必要な場合がある

大家さんに直接相談

個人契約の場合の場合には、大家さんに直接相談しましょう。

  • 大家さんに契約書の作成を依頼
  • 口約束の内容を文書化
  • 今後のトラブル防止のための覚書作成

契約書がない場合の対策

  • 口約束の内容を詳細にメモ
  • 日付、場所、立会人の記録
  • 家賃の支払い記録の保管
  • メールやLINEでのやり取りの保存

まとめ

契約書がない賃貸契約について重要なポイント

  1. 口約束だけでも賃貸借契約は法的に有効
  2. 契約書は証明書であり、契約そのものではない
  3. 借地借家法により借主の権利は保護される
  4. 証拠収集が最も重要な対策
  5. トラブル発生時は専門機関に相談

契約書がない賃貸契約は決して珍しいことではありませんが、トラブル防止権利保護のためには、可能な限り契約内容を文書化することが重要といえるでしょう。

相談窓口

  • 全国賃貸住宅経営者協会連合会(ちんたい協会):0570-08-5584
  • 消費者ホットライン:188
  • 法テラス:0570-078374

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