この記事でわかること

  • 高齢者が賃貸を借りにくい5つの根本的理由と法的背景
  • 60代前半・後半・70代以上の年代別具体的対策法
  • 実際に発生する賃貸トラブル事例と予防・対処方法
  • 高齢者でも賃貸物件を借りるための必要書類と準備手順
  • トラブル発生時の相談窓口と法的手段の活用方法

「父が賃貸の審査に3回も落ちてしまって...」「母の一人暮らしが心配だけど、どこも貸してくれない」「高齢を理由に更新を拒否された」など、高齢者の賃貸トラブルに関する悩みは急速に増加しています。

実際に、65歳以上の高齢者の約4人に1人(26.8%)が年齢を理由とした入居拒否を経験しており、賃貸住宅への入居が困難な状況が社会問題となっています。しかし、適切な対策と準備があれば、高齢者でも賃貸住宅を借りることは十分可能です。

この記事では、なぜ高齢者が賃貸物件を借りにくいのか、どうすれば借りられるのか、そしてトラブルが発生した場合はどう対処すべきかを、法的根拠を含めて詳しく解説します。

高齢者が賃貸物件を借りにくい5つの根本的理由

まず、高齢者が賃貸物件を借りにくい理由からみていきましょう。

1. 孤独死リスクへの懸念

法的根拠: 民法606条(賃貸人の修繕義務)により、賃貸人は物件の維持・(管理・)修繕義務を負いますが、孤独死による特殊清掃や大規模修繕は想定外の費用となります。

実態:

  • 東京23区内における65歳以上の一人暮らしでの自宅死亡者数:平成30年に3,882人(約10年で2倍)
  • 発見が遅れた場合の特殊清掃費用:50万円~200万円
  • 事故物件告知義務による家賃下落:10%~30%

2. 収入面での不安定さ

法的根拠: 家賃の滞納があった場合、民法541条(催告による解除)により、賃貸借契約の解除事由となります。

収入基準の現実:

  • 一般的な審査基準:家賃は月収の3分の1以下→ 年金月額15万円の場合、借りられる家賃は5万円程度
  • 60代前半:再就職による収入低下
  • 60代後半:年金受給開始だが金額が限定的
  • 70代以上:年金のみで選択肢が大幅制限

3. 保証人確保の困難さ

法的根拠: 民法446条以下の保証制度により、連帯保証人は借主と同等の責任を負うため、オーナー側は保証人の確保を重視します。

高齢者が直面する現実:

  • 配偶者の他界
  • 兄弟姉妹も高齢化
  • 子どもとの関係悪化・希薄化
  • 親族の保証能力不足

家賃保証会社の審査状況(国土交通省調査):

  • 20代~40代:審査落ち0%
  • 50代:審査落ち1.9%
  • 60代:審査落ち7.5%
  • 70代:審査落ち9.4%

4. 健康状態への不安

法的根拠: 民法608条(賃借人の用法遵守義務)により、借主は物件を適切に使用する義務がありますが、認知症等により義務履行が困難になるリスクがあります。

オーナーが懸念する健康リスク:

  • テレビの音量問題(難聴)
  • ゴミ出しのルール違反
  • 徘徊による迷惑行為
  • 水回りの管理不備による漏水
  • 火の元管理による火災リスク

5. 長期居住の不確実性

法的根拠: 借地借家法28条により、正当事由なく更新拒絶はできませんが、借主の事情変化による中途解約リスクは存在します。

不確実性の要因:

  • 医療費増加による家賃支払い困難
  • 介護が必要になった場合の住み続け困難
  • 家族による強制的な住み替え要求
  • 施設入所による急な退去

年代別に起きやすいトラブルと対策方法

それでは年代別のトラブルの理由と、それぞれの対策法を見ていきましょう。

60代後半(65-69歳)のトラブルと対策

この年代で多いトラブル:

  • 年金のみの収入での審査落ち
  • 健康不安による入居拒否
  • 保証人確保の困難

重点対策

  1. 年金額の最大化と証明
    • 繰り下げ受給の検討と証明書
    • 厚生年金・国民年金の満額受給証明
    • 企業年金・個人年金の合算証明
  1. 健康状態の積極的アピール
    • 定期健診結果の提出
    • かかりつけ医からの健康証明書
    • 生活習慣病の管理状況報告

70代以上のトラブル対策

この年代で多いトラブル:

  • 審査通過率の大幅低下
  • 孤独死リスクを理由とした入居拒否
  • 認知症発症への懸念

必須の準備

  1. - 医療・介護体制の完全整備
  2. - かかりつけ医の確保と診断書
  3. - 地域包括支援センターとの連携
  4. - 介護保険認定の事前取得(必要に応じて)
  5. - 成年後見制度の検討
  6. - 見守りサービスの導入
  7. - 推奨サービス:
  8. - セコム・ホームセキュリティ(月額4,840円~)
  9. - アルソック・みまもりサポート(月額2,970円~)
  10. - 象印・みまもりほっとライン(月額3,300円)
  11. 専門住宅の検討
    • 高齢者向け優良賃貸住宅
    • サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
    • シルバーハウジング

実際に発生する賃貸トラブル事例と対処法

高齢者の賃貸トラブルとして実際に起きやすいものを確認していきます。

トラブル事例1:突然の家賃値上げ要求

事例:

「78歳の母が住んでいるアパートで、突然『来月から家賃を2万円上げる』と通知が来ました。事前相談もなく、納得できません」

法的根拠: 借地借家法32条(借賃増減請求権)により、家賃の値上げには正当な理由が必要です。

対処法:

  1. 値上げの正当性確認
    • 近隣相場との比較
    • 固定資産税の増加確認
    • 修繕費用の妥当性検証

交渉手順

  1. Step1:書面での理由説明要求
  2. Step2:近隣相場調査の実施
  3. Step3:家族同席での話し合い
  4. Step4:調停申立ての検討

トラブル事例2:更新拒否の通知

事例:

「契約更新時期に『高齢のため更新できない』と言われました。10年間も住んでいるのに納得できません」

法的根拠: 借地借家法28条により、正当事由なく更新拒否はできません。単に「高齢だから」という理由は正当事由に該当しません。

対処法:

  1. 正当事由の有無確認
    • 建物老朽化の客観的証拠
    • オーナーの使用必要性
    • 立退料の提示有無
  2. 対応手段
  3. 即座の対応:更新拒否に対する異議申立て書面作成
  4. 法的手段:地方裁判所への調停申立て
  5. 専門相談:弁護士・司法書士への相談

トラブル事例3:敷金返還拒否

事例:

「退去時に『高齢者だったので全面張替えが必要』と言われ、敷金30万円が全額差し引かれました」

法的根拠: 民法621条、国土交通省「原状回復ガイドライン」により、通常の使用による損耗は貸主負担。

対処法:

  1. 原状回復範囲の確認
    • 入居時の状況記録確認
    • 通常損耗と故意・過失の区別
    • 修繕費用の妥当性検証
  2. 証拠収集

必要な証拠:

  1. - 入居時・退去時の写真
  2. - 過去の修繕履歴
  3. - 同種物件の修繕費用相場
  4. - 専門業者の見積書

高齢者向け住宅支援制度の活用

全国共通の制度

高齢者住宅財団の家賃債務保証

制度概要:

  • 保証対象:60歳以上の高齢者
  • 保証料:家賃の35%(2年間)
  • 保証範囲:滞納家賃・原状回復費用

申込条件:

  • 月額収入が家賃の4倍以上
  • 同財団と基本約定締結済み物件
  • 緊急連絡先の確保

終身建物賃貸借制度

制度概要: 借主が死亡するまで住み続けられる制度(都道府県知事認可物件)

メリット:

  • 高齢を理由とした退去要求不可
  • 相続発生なし(一代限り)
  • バリアフリー設備充実

福岡市の高齢者向け住宅支援

福岡市営住宅の高齢者優遇制度

申込資格:

  • 60歳以上の単身者または高齢者世帯
  • 所得制限:収入月額15.8万円以下
  • 福岡市内在住または在勤

優遇措置:

  • 抽選倍率の優遇(一般枠の2倍)
  • 家賃減額制度(所得に応じて最大50%減額)
  • シルバーハウジング(見守りサービス付き)

民間賃貸住宅家賃助成制度

対象条件:

  • 65歳以上の単身世帯
  • 月額所得12万円以下
  • 家賃月額5万円以下の物件

助成内容: 月額家賃の20%(上限1万円)

申請窓口: 福岡市保健福祉局高齢社会部 電話:092-711-4881

その他の主要都市の支援制度

東京都

高齢者向け優良賃貸住宅:

  • 家賃減額:月額4万円まで
  • 申込資格:60歳以上、月額所得32.7万円以下

大阪市

高齢者住宅改修費助成:

  • 助成額:上限30万円
  • 対象工事:バリアフリー改修

名古屋市

高齢者住替え支援:

  • 転居費用助成:上限20万円
  • 保証人代行サービス

トラブル発生時の相談窓口と法的手段

初期段階(予防・軽微なトラブル)

地域包括支援センター

  • 管轄:各市町村
  • 対応:住宅相談・生活支援
  • 費用:無料
  • 対応時間:平日9:00-17:00

消費生活センター

  • 全国統一番号:188(いやや)
  • 対応:契約トラブル・消費者被害
  • 費用:無料

中級段階(具体的トラブル発生)

法テラス

  • 電話:0570-078374
  • 対応:法律相談、弁護士・司法書士紹介
  • 費用:条件により無料
  • 法律相談:30分5,500円(収入条件により無料)

各都道府県の住宅課

  • 対応:賃貸住宅に関する相談
  • 行政指導の可能性

重篤段階(法的手続き必要)

簡易裁判所(調停)

  • 申立費用:数千円
  • 期間:2-6ヶ月
  • 効果:裁判所での話し合い

地方裁判所(訴訟)

  • 申立費用:数万円~
  • 期間:6ヶ月~2年
  • 効果:法的判断

まとめ

高齢者の賃貸探しは確かに困難を伴いますが、適切な準備と法的知識があれば必ず解決できます。重要なのはオーナーの不安を理解し、それを解消するだけの準備と誠意を示すことです。

一人で悩まず、家族や専門機関と連携して、安心できる住まいを確保しましょう。

参考資料・関連リンク

法律・制度関連

  • 借地借家法(昭和16年法律第49号)
  • 民法521条以降(契約)
  • 高齢者の居住の安定確保に関する法律
  • 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
  • 国土交通省「賃貸住宅標準契約書」

相談窓口

  • 法テラス:0570-078374
  • 消費者ホットライン:188
  • 全国賃貸住宅経営者協会連合会:0570-08-5584
  • 高齢者住宅財団:03-6880-2781
  • 福岡市保健福祉局高齢社会部:092-711-4881

参考サイト

  • 国土交通省「民間賃貸住宅に関する施策」
  • 高齢者住宅財団公式サイト
  • 各自治体の住宅相談窓口
  • 法テラス公式サイト
  • 不動産適正取引推進機構

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